SCM415・SCM420は浸炭焼入れに適した代表的な鋼材

浸炭焼入れは、自動車部品や建設機械部品、産業機械部品など、耐摩耗性と疲労強度の向上が求められる製品に広く採用されている熱処理です。

その中でもSCM415SCM420は、浸炭焼入れを前提として設計されることが多い代表的なクロムモリブデン鋼です。

表面だけを高硬度化し、内部には粘り強さ(靭性)を残せるため、「硬さ」と「割れにくさ」を両立できることが大きな特徴です。

ギヤ、シャフト、スプライン、カム、ピン、ローラーなど、長期間にわたり高い耐久性が求められる部品で数多く採用されています。


SCM415とSCM420の違い

SCM415とSCM420は非常によく似た材料ですが、主な違いは炭素含有量です。

鋼種炭素量特徴
SCM415約0.13~0.18%靭性を重視した設計に適する
SCM420約0.18~0.23%心部強度をやや高めやすい

どちらもクロム(Cr)とモリブデン(Mo)を含む低炭素合金鋼であり、浸炭焼入れによって表面に炭素を浸透させることで、高い表面硬度が得られます。

そのため、実際の熱処理後の表面硬度に大きな差が出ることは少なく、部品の用途や設計条件によって使い分けられています。


SCM415H・SCM420Hとの違い

図面で「SCM415H」「SCM420H」という表記を見かけることがあります。

この「H」は焼入性保証鋼(H鋼)を意味し、化学成分だけでなく焼入性が規格内に管理された材料です。

一般的なSCM415・SCM420でも浸炭焼入れは可能ですが、大量生産や重要保安部品では、品質のばらつきを抑えるためにH鋼が採用されるケースもあります。

SCM415H・SCM420Hの「H」とは?焼入性保証鋼とは

SCM415HやSCM420Hの末尾に付く「H」は、焼入性保証鋼(Hardenability Guaranteed Steel)を意味します。

焼入性とは、「焼入れを行った際に、どの程度の深さまで十分な硬さを得られるか」を示す材料の性質です。焼入性が安定していることで、部品の大きさや形状が変わっても、要求される硬さや機械的性質を得やすくなります。

焼入性保証鋼では、通常の化学成分規格に加え、JIS規格に基づく焼入性試験(ジョミニー一端焼入れ試験)を実施し、その結果が規定された範囲内に入ることが保証されています。

ジョミニー試験では、規定寸法の試験片を加熱後、一端だけを水冷し、冷却端から一定間隔ごとの硬度を測定します。この硬度分布により、材料がどの程度の焼入性を持つかを評価します。

つまり、「H」が付く鋼材は、化学成分だけでなく、実際の焼入れ後に得られる硬化性能まで管理・保証された材料であり、熱処理後の品質のばらつきを抑えやすいという特長があります。

そのため、自動車部品や建設機械部品、産業機械部品など、品質の安定性が特に求められる量産品や重要保安部品で多く採用されています。

一方で、SCM415やSCM420でも適切な熱処理を行うことで十分な性能が得られるケースも多くあります。どちらを選定するかは、部品の形状や寸法、要求性能、生産数量などを総合的に考慮して決定されます。


浸炭焼入れ後の硬度

浸炭焼入れ後の硬度は、浸炭条件や焼戻し条件によって多少変化しますが、一般的には以下のようになります。

部位硬度
表面約60~62HRC
心部約30~40HRC

高い表面硬度によって耐摩耗性が向上し、内部は適度な粘り強さを保つため、衝撃荷重や繰り返し荷重にも耐えやすい構造となります。

用途によっては焼戻し条件を調整し、硬度をコントロールすることも可能です。


有効硬化層深さとは?

浸炭焼入れでは「有効硬化層深さ」が非常に重要な品質管理項目です。

有効硬化層深さとは、一定以上の硬さを維持している表面から内部までの深さを指します。

一般的な指定例としては、

  • 0.3mm
  • 0.5mm
  • 0.8mm
  • 1.0mm
  • 1.2mm

などがあります。

部品が受ける荷重や摩耗条件によって適切な深さは異なります。

浅すぎると摩耗寿命が短くなり、深すぎると熱処理時間の増加や歪み、コスト上昇につながる可能性があります。

そのため、設計段階で適切な硬化層深さを設定することが重要です。


有効硬化層深さはどのように測定するの?

一般的には、部品を切断して断面を研磨・エッチングし、マイクロビッカース硬度計による硬度分布を測定します。

JISでは、有効硬化層深さは通常550HVに相当する位置までの深さを基準として評価されます(適用規格や製品仕様により評価方法が異なる場合があります)。

測定結果は品質保証の重要な指標となり、図面要求との適合性を確認するために活用されます。


浸炭時間と有効硬化層深さの関係

浸炭時間が長くなるほど炭素の浸透は進み、有効硬化層深さも深くなる傾向があります。

ただし、単純に長時間処理すれば良いというわけではありません。

過度な浸炭は、

  • 歪みの増加
  • 処理コストの上昇
  • 生産性の低下
  • 過共析炭化物の生成リスク

などにつながる場合があります。

そのため、部品形状や用途に応じた適切な処理条件を設定することが重要です。


浸炭焼入れで発生する歪み

浸炭焼入れでは高温加熱と急冷を行うため、多少の寸法変化や歪みが発生します。

特に、

  • 長尺シャフト
  • 薄肉リング
  • 大径ギヤ
  • 左右非対称形状

などでは歪みが大きくなる傾向があります。

歪みを最小限に抑えるためには、

  • 部品形状に適した治具の使用
  • 最適な焼入れ条件
  • 適切な焼戻し
  • 必要に応じた歪矯正

など、熱処理工程全体を考慮した管理が重要です。


SCM415・SCM420が採用される代表的な部品

SCM415・SCM420は、以下のような幅広い用途で使用されています。

  • 自動車用ギヤ
  • トランスミッション部品
  • 建設機械用ピン
  • スプラインシャフト
  • カム
  • ローラー
  • チェーン部品
  • 減速機部品
  • 工作機械部品
  • 産業機械部品

耐摩耗性と疲労強度が求められる部品には、浸炭焼入れが適した熱処理方法として採用されています。


よくあるご質問(FAQ)

Q1. SCM415とSCM420はどちらが多く使用されていますか?

どちらも広く使用されていますが、自動車や産業機械ではSCM420が採用されるケースが比較的多く見られます。最適な鋼種は、部品形状や要求性能によって異なります。

Q2. 浸炭焼入れ後の表面硬度はどのくらいですか?

一般的には約60~62HRCが目安ですが、浸炭条件や焼戻し条件によって変わる場合があります。

Q3. 有効硬化層深さは指定できますか?

はい。0.3mmから1.2mm程度まで、用途に応じて指定されることが一般的です。図面仕様や使用条件に応じてご相談ください。

Q4. 浸炭焼入れ後に研削加工はできますか?

はい。精密部品では熱処理後に研削加工を行い、最終寸法に仕上げることが一般的です。熱処理による寸法変化を考慮し、適切な研削代を設けることが重要です。

Q5. SCM415H・SCM420Hを指定するメリットは何ですか?

焼入性が管理された材料であるため、量産品や品質の安定性が重視される部品で採用されることがあります。


浸炭焼入れをご検討の際はお気軽にご相談ください

SCM415・SCM420は、浸炭焼入れに適した代表的な鋼材ですが、最適な熱処理条件は部品形状や用途、要求品質によって異なります。

山崎化学エイチ・テイ株式会社では、お客様の図面や使用条件を確認しながら、有効硬化層深さや硬度、寸法変化などを考慮した熱処理条件をご提案しています。

「指定硬度に対応できるか」「有効硬化層深さを満たせるか」「歪みをできるだけ抑えたい」といったご相談にも対応しておりますので、浸炭焼入れをご検討の際はお気軽にお問い合わせください。

熱処理のお問い合わせはコチラから

熱処理の御見積り依頼はコチラから